ベトナムコーヒー市場概観(2025年版)
ベトナムのコーヒー消費市場:広がる規模と高まる消費
コーヒーは何百万人ものベトナム人にとって日常的な習慣であり、消費規模と支出額は急速に伸び続けています。これにより、ベトナムは世界第2位のコーヒー輸出国であるだけでなく、国内消費市場としても急成長を遂げています。
市場調査会社Mordor Intelligenceによれば、ベトナムのコーヒー市場規模は2025年に5億1,872万米ドルに達すると推定されています。こうした成長は、伝統的なロブスタコーヒーに加え、近年人気を集めているスペシャルティコーヒーへの需要の高まりを反映しています。
ベトナムにおけるコーヒー消費量の増加
消費量の面では、ベトナム人はこれまでになく多くのコーヒーを飲むようになっています。国内のコーヒー消費量は、過去数年の約400万袋(60kg袋換算)から増加し、2025年には490万袋に達すると予測されています(Daily Coffee News)。
この需要増加の背景には、以下のような点が挙げられます。
- 急速な都市化
- 若い中間層の拡大とライフスタイルの変化
- ホーチミン市やハノイに代表されるカフェ文化の広がり
ベトナムのカフェ文化:アジアでも有数の競争市場
ベトナムのコーヒー文化は、カフェ市場をアジア有数の激戦区に押し上げています。なんと国内には
50万軒以上のカフェがあり、路地裏の小さなカフェから高級チェーン店まで幅広く展開されています(Vietnam News)。
大手国内チェーンではHighlands Coffee、Trung Nguyên Legend、Phúc Longが全国規模に成長。一方、Starbucksなどの海外チェーンはプレミアムで憧れのライフスタイルを体現するブランドとして市場に参入しています。
競争は激化していますが、参入ハードルが低いため新規出店は依然として活発です。この状況では「どう差別化するか」が
生き残りの必須条件になっています。
サービスによる差別化
ホーチミン市などの都市部では、スピードと利便性が重要で、モバイルオーダーやデリバリーが不可欠です。
一方、ブティック系カフェはパーソナライズされたサービスや地域コミュニティとのつながりを重視し、リピーターを惹きつけています。
ブランドコンセプトによる差別化
大手チェーンに対抗するために、ローカルカフェは消費者のライフスタイルに響く独自のブランドコンセプトを
打ち出しています。単なるコーヒーを飲む場ではなく、人とつながる場、仕事や学びの場、あるいは自己表現の空間へと進化を遂げています。
- 個性的なインテリアで飾られたテーマカフェは、SNS好きの若者に人気を集めている。
- コワーキングスペース型カフェは、フリーランスや学生にとって使い勝手のよい場所になっている。
- ペットカフェは、遊び心があって人がつながれる場として親しまれている。
これらのユニークなコンセプトは、変化する消費者ニーズに対応するだけでなく、小規模店舗が競争が
激化する市場で存在感を発揮するための有効な戦略となっています。

Cat Cafe. Credit: Purrfect Coffee

Katinat is expanding its business.

Well-equipped furniture creates every store of Katinat a Instagrammable spot
製品の質とイノベーションによる差別化
ロブスタ・フィンコーヒーは今もベトナム文化を象徴する定番ですが、若い世代を中心に、スペシャルティアラビカブレンドや
コールドブリュー、国際的なスタイルのエスプレッソドリンクへも嗜好が広がっています。
また、大手国内チェーンのPhúc Long はコーヒーに加えてお茶やデザートのラインナップを増やすことで、
より幅広い層を取り込み差別化を図っています。
一方、スペシャルティロースターは、
- シングルオリジン豆の個性
- サステナビリティ(持続可能性)への取り組み
- トレーサビリティ(生産地の透明性)
といった要素を打ち出し、プレミアム価格に説得力を持たせています。
こうした「質」と「新しさ」へのこだわりが、競争の激しいベトナムのコーヒー市場で生き残るための
カギとなっているのです。

An innovative drink by Every Half Roastery

The Workshop (HCMC) is famous for its coffee quality
ベトナムのコーヒー消費トレンド
ベトナムのコーヒー市場にはユニークな二面性があります。ひとつは価格に敏感で伝統的なロブスタコーヒーを楽しむ層、
もうひとつは若い世代を中心に広がる、アラビカやスペシャルティコーヒーといったプレミアムな体験を求める層です。
ロブスタ vs. アラビカ:日常の一杯と特別な一杯
ベトナムは世界でも有数のロブスタ生産国で、生産量の約95%をロブスタが占め、アラビカはわずか5%程度にとどまります
(出典)。そのためロブスタは豊富で価格も手ごろ。街角のカフェフィン(ベトナム式ドリップ)やインスタントコーヒー、
ローカルカフェで出されるコーヒーの多くは、ロブスタがベースになっています。ロブスタ特有の力強いボディ感と
しっかりした苦味は、多くのベトナム人にとって「これぞ本物のコーヒー」という味わいです。
一方で、プレミアムやスペシャルティの市場では、よりなめらかで奥行きのある風味を持つアラビカが注目されています。
都市部の若い世代を中心に、シングルオリジンのアラビカやフィルターコーヒー、コールドブリュー、スペシャルティブレンド
を選ぶ人が増え、多少高くても試してみたいというニーズが高まっています。
ただし、アラビカは国内の供給量が限られているため、多くのスペシャルティカフェは海外から豆を輸入したり、
ロブスタとブレンドしてコストと品質のバランスを取ったりしています。
こうした背景から、多くの消費者は少しずつ“アップグレード”していく傾向があります。たとえば、普段は手ごろな
ロブスタのコーヒーを飲みながら、ときにはアラビカのラテやハンドドリップをプレミアムカフェで楽しむ、
といったスタイルです。ロブスタからアラビカまで幅広く対応できるブランドこそ、この市場で優位に立てる存在と
言えるでしょう。
世代間ギャップ:Z世代・ミレニアル世代 vs. 中高年層
ベトナムのコーヒー消費には、世代によるはっきりとした違いが見られます。
中高年層は、ロブスタとコンデンスミルクコーヒーが主流だった時代に育ったため、今でも価格を重視し、
地元のカフェや路上で楽しむスタイルに親しんでいます。彼らにとってコーヒーは「安心」「伝統」「毎日の習慣」
を象徴する存在です。
一方で、Z世代やミレニアル世代にとってコーヒーは、自己表現やライフスタイル、社会的なつながりを
示すアイコンのようなものとして親しまれています。調査によれば、Z世代の多くが毎日コーヒーを飲んでおり、
特に**アイスカフェスアダー(練乳入りアイスコーヒー)**を好みます。ただし、彼らは新しい味や抽出法、カフェの業態や
海外のトレンドにもオープンで積極的です。
また、Z世代やミレニアル世代はカフェに「SNS映えする空間」や「モバイルオーダーの便利さ」、さらには
「植物性ミルクやヘルシーなメニュー」といった多様性を求める傾向も強いです。カフェやドリンク選びに
SNSが大きな影響を与えているのもこの世代ならではの特徴です。
さらに、Z世代はストーリーテリングやブランドの世界観を重視するのも特徴です。
- 農園からカップまでの物語(Farm to Cup)
- 環境に配慮したパッケージ
- 地域文化を反映したアイデンティティ
こうした要素も重視し、コーヒーは「美味しい」だけでなく「見た目も良く、シェアでき、自身の
ライフスタイルに合っている」と感じられるブランドが求められています。
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