ベトナムデザインの新潮流:文化遺産に学ぶ、心を掴むクリエイティブ
ベトナムは東南アジアで最も急成長している消費市場のひとつであり、若くテクノロジーに精通した世代が新しい消費トレンドを牽引しています。 しかし、ベトナムのユニークな点は、「近代化が伝統を犠牲にして進んでいるわけではない」という点です。
ベトナムでは、文化的ルーツが生活に深く根付いています。文化遺産は博物館の中に閉じ込められているものではなく、家族の集まりやお祭り、そして日常の習慣の中に生き続けています。
近年、この「生きている文化」がクリエイティブデザインに新しい波を生み出しています。多くの企業やブランドがベトナムの文化的要素と現代的なビジュアルを融合させ、懐かしさと新しさを同時に感じさせるデザインアイディアを生み出しています。
このトレンドは単なるノスタルジー(懐古趣味)ではなく、ミレニアル世代やZ世代にとって「グローバルトレンドを楽しみつつ、自分たちのルーツとつながる」ための表現手段となっています。彼らにとって文化遺産は古くさいものではなく、現代社会におけるアイデンティティを表現する手段なのです。
だからこそベトナムでは、文化的要素をクリエイティブキャンペーンに活用することで、消費者に強力なインパクトを与える企業やブランドが増えています。
ベトナム市場に参入するグローバルブランドにとって、文化的モチーフを取り入れたデザインは“選択肢”ではなく、“信頼を得るための鍵”そのものと言えます。
【文化的モチーフを取り入れた好事例】
adidas「Việt Nam Đồng Hiện」キャンペーン(2021年)
この企画は若手クリエイターたちを対象に、伝統文化を現代的視点で表現するコンペティションとして展開され、「ベトナムらしさ」をアート作品を通じて再定義しました。
トレンドの背景にある消費者心理
ベトナムのクリエイティブデザインにおいて、文化的要素の活用が人気を博している理由を解説します。
1. 文化的アイデンティティとの深いつながり
ベトナムでは、文化遺産が世代やコミュニティを超えて人々をつなぐ存在となっています。そのため、このアイデンティティを称えるキャンペーンは「本物らしさ」や「共感」を生みやすいと言えます。
2. グローバル志向と自国文化への誇り
ミレニアル世代やZ世代はグローバルトレンドを追いながらも、自国の文化に誇りを持っています。そのため、ブランディングやデザインにおいても「ハイブリッドなデザイン」が自然に受け入れられやすく、刺激的で魅力的だと感じられています。
3. シェアしたくなるデザイン
文化的なストーリーテリングはデザインへの共感性を高め、拡散されやすくなります。キャンペーンや商品デザインが「ベトナムらしさ」と「現代的なスタイリッシュさ」を兼ね備えていると感じられた時、多くの消費者はただ注目するだけでなく、SNSでシェアするのです。
ローカルカフェチェーン「Cộng Cà Phê」は、ベトナム文化をモチーフにした内装デザインで若者たちに人気を集めています。
文化遺産にインスパイアされた注目のクリエイティブデザイン事例
1. プロダクトデザイン:Biti’s Hunter ― 靴に込めた“ベトナムの誇り”
約50年の歴史を持つベトナムの国民的シューズブランド「Biti’s」は、NikeやAdidasといったグローバルブランドの台頭で、若年層から「時代遅れ」「存在感が薄い」と感じられていました。
そこで実施したのが「Vietnam Arising(ベトナムの台頭)」キャンペーンでした。「国民の誇り」を掲げ、ベトナムの伝統的な模様やエネルギーから着想を得たスニーカーを発表し、「Proudly Made in Vietnam(ベトナム製を誇る)」というブランドメッセージを強く印象づけることに成功しました。
“Vietnam Arising” Collection – Bitis Hunter x Vietmax (出典: Bitis)
2. 映像コンテンツ:Vietnam Airlines ― 機内安全ビデオ
ベトナム航空は、伝統舞踊や民族衣装などベトナムのさまざまな芸術を機内安全ビデオに取り入れました。単なる機能的なメッセージを伝える一般的な機内安全ビデオとは違い、文化的な要素を活用することで、楽しみながら視聴できるストーリーテリングな作品へと昇華させ、乗客から高い評価を得ています。
(出典:Vietnam Airlines)
3. パッケージデザイン:Johnnie Walker ― 旧正月限定ギフトボックス
Johnnie Walkerは、テト(ベトナムの旧正月)に向けてベトナム人アーティストを起用し、ベトナムの伝統的な工芸技法をモチーフにしたデザインの限定ギフトボックスを販売しました。グローバルブランドとしてのアイデンティティを維持しながら、ローカル文化を尊重したコラボレーションの好例です。
テトに向けたJohnnie Walkerの限定ギフトボックスには、ベトナムの伝統的な工芸技術であるĐậu BạcとPháp Lanが使われています。(出典:Brands Vietnam)
ローカライゼーションにおけるクリエイティブデザインの役割
文化的遺産にインスパイアされたクリエイティビティの台頭により、ベトナムにおける企業・ブランド・デザイナーそれぞれのアプローチが大きく変わっています。今回ご紹介した好事例を含め、成功したアプローチがどのように展開されているかをまとめてみました。
- ビジュアル・アイデンティティ: ベトナムの象徴的なアイコン、色彩、素材を、現代的で関連性の高い方法で活用する。
- ストーリーテリング:コミュニティ、家族、文化に対する誇りなどのベトナムで共有される価値観をブランドの物語に取り入れる。
- 季節を意識したキャンペーン: テトや中秋節といった祝日に関連する意味のあるデザインを展開する。
- デジタル・エンゲージメント: 文化遺産や伝統をデジタル体験として再構築する。(例:ミニゲームやAR体験)
グローバルブランドがベトナム市場で成功するためのポイント
- 文化を尊重すること: ベトナムの消費者は、「心からの敬意」と「ビジネスのための模倣」の違いに敏感です。文化的要素を取り入れる際は、深い理解と真摯な姿勢が重要だと言えるでしょう。
- ローカルパートナーとの協業: 文化的要素を正確に理解し、信頼性を担保するためには、ネイティブのいる現地の企業や団体との協業が必要不可欠です。「ローカルエキスパート」の協力のもと、メッセージが適切に伝わるようにしましょう。
- 単なる“翻訳”ではなく“ローカライズ”の徹底: ビジュアルやシンボル、ブランドストーリーまで、ただ単にベトナム語に翻訳するだけでなく、文化や生活習慣に自然に溶け込む「ベトナムらしさ」を意識したローカライズの徹底が必要不可欠です。
- 文化的イベントを最大限に活用する: テトや中秋節といった祝日は、文化的コンテンツへの関心や需要が高まる時期です。これらのイベントに照準を当ててキャンペーンを組み立てることも重要です。
ベトナムの消費市場は、「現代志向」と「文化への誇り」という2つの要素がユニークな形で共存することで特徴づけられています。また、現在のベトナムのクリエイティブデザインの潮流は、「伝統文化に根ざしながらも、大胆でグローバル、かつ最先端のデザインを生み出すことが可能である」ことを示しています。
グローバルブランドにとって、文化遺産を活かしたクリエイティブデザインは、単なるトレンドではなく“必須戦略”と言えるでしょう。
POINTS Creative Vietnamでは、ベトナムの消費者に心から受け入れられる「ローカルの本質」と「斬新なデザイン」の最適なバランスを一緒に探っていきます。ベトナム市場で本当に響くデザインを目指す皆さま、ぜひ私たちにご相談ください。

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